Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナと熱 輻射熱と対流熱

 「サウナと熱 サウナ室の中の熱」ではサウナ室を3つのタイプに分けて考えた時、私たちがどこから何熱を受け取っていると考えらえれるのか、考察してみました。今回は、その違いについて更に詳しく考察してみます。

 

3種類のサウナ室と熱の動き

 サウナ室の熱源やヒーターにはいろいろなものがありますので、また別の記事でまとめる予定ですが、前回は遠赤外線ヒーターのサウナ室、ストーンを使ったサウナ室、ヒーター格納式のサウナ室の3つについて、熱の動きを考えてみました。

 

遠赤外線ヒーターのサウナ室

遠赤外線ヒーターのサウナ室

 

ストーンを使ったサウナ室

ストーンを使ったサウナ室

 

ヒーター格納式のサウナ室

ヒーター格納式のサウナ室

 

  このように、サウナ室では様々な種類の熱が私たちの身体に届いていると考えられます。どこまでが何による何熱、ということは区別できませんが、ヒーターの種類によってどれが強めかということはある程度予想できます。遠赤外線ヒーターのサウナ室であれば、ヒーターからの輻射熱が主であり、ストーンを使ったサウナ室は対流熱が主であり、ヒーター格納式のサウナ室は更に対流熱の割合が大きいのでは、と考えられます。

 

サウナと輻射熱

 ストーンを使ったサウナ室で空気が温められるのは、空気が熱い石に触れて直接熱を受け取るからでした。遠赤外線ストーブは、「直接」身体に熱が届くストーブで、空気は温めにくいと考えられます。遠赤外線ストーブ自体が熱くなっていて、そこに空気が触れれば、同じように熱が空気に移動することはありますが、基本的に人体を温める目的で作られている遠赤外線ヒーターの場合、この熱の移動はあまり起こらないように作られています。遠赤外線ヒーターのサウナ室の場合、私たちが受け取るのはヒーターからの輻射熱が主で、空気を媒介とした対流熱は少ないと考えられます。

サウナ 遠赤外線ヒーター  サウナ 遠赤外線ヒーター

(画像出典:サンバーニング株式会社HP

 

 空気が熱い(対流熱)や壁・椅子などの物体を触ると熱い(伝導熱)というのはわかりますが、物質を介さない電磁波である輻射熱は体感しにくいと言えそうです。電磁波として熱が伝わってはきますので、身体が熱くなる、熱いと感じることは感じますが、「これが輻射熱だ」と触れることはできません。空気や液体、物質は触れますが電磁波には触れない、ということです。私たちはサウナ室の熱を語るのに、「輻射」という言葉を使うことがあります。サウナ室に熱がこもっていることや、壁などから熱を感じる時に「輻射(熱)が強い」と言ったりしますが、輻射熱の定義を確認するとこうした使い方は間違っているかもしれません。輻射熱はあくまで物質を介さない熱なので、壁の近くに手を持っていって暖かさを感じるのはむしろ対流熱ですし、触れて熱いのは伝導熱です。

 そして、「顔ばかり熱くなって身体まで温まらない」「顔からしか汗が出ない」「グリルで焼かれているような感覚がある」と感じるのは遠赤外線ヒーターのサウナ室のことが多いような気がします。これも遠赤外線の性質と関係ありそうです。遠赤外線は水分を含む物によく届きます。電子レンジに石を入れても温まりにくいのに対して、ラップに少し水滴がついていてもバチバチ音がしたりします。髪の毛があることなどで、頭は水分が身体よりも多く遠赤外線の熱を受けやすいということが、顔ばかり熱くなる原因の一つかもしれません。また、遠赤外線ヒーターは正面ほど受け取りやすいので、身体全体よりも前半分の方が温まりやすいと考えられます。正面であり、一番上に位置する顔は熱くなりやすいのかもしれません。もちろん、顔が熱くなることには他にもいろいろ理由が考えられますが。

  直接電磁波として熱が伝わってくる輻射熱の割合の大きい遠赤外線ヒーターのサウナ室より、対流熱メインのストーンを使ったサウナ室の方が全身が熱い空気に包まれて心地良いのでは、という気がしてきますが、遠赤外線ヒーターにもメリットはあります。例えばエネルギー効率です。ストーンを使ったサウナ室の場合、人体だけでなく周りの空気も温めてしまうので、「人体を温める」という視点で見ればロスが大きいと言えます。遠赤外線ヒーターは、そのロスを少なくし、人体が効率良く温まるように作られているので空気は温めにくいです。

 銭湯サウナなどでは遠赤外線ヒーターをよく見かけます。遠赤外線ヒーターが普及しているのは、スペースの問題やエネルギー効率も関係していると考えられます。格納式のサウナ室を持つ某銭湯サウナの店主が、「ランニングコストを考えると遠赤外線に変えたいんだけど、うちのサウナの方が熱が気持ちいいんだよねぇ。」と話してくれたことがあります。効率が良いというのは遠赤外線ヒーターのメリットと言えますし、それが普及している理由とも考えられます。

 

サウナと対流熱

 一方、ストーンを使ったサウナ室は熱い石に触れた空気が熱を運ぶ対流熱が主であると考えられます。

サウナ ストーン 

(画像出典:株式会社METOSサウナカタログ

 サウナ ストーン

(画像出典:泉興産株式会社HP

 

 遠赤外線ヒーターはストーンを使ったサウナ室よりロスが少なく、効率良く人体を温めることができます。つまり「人体を温める」という目的でエネルギー効率を考えるのであれば、遠赤外線ヒーターの方が効率が良いということです。神戸メディケアの遠赤外線サウナのページには、従来の高温サウナ(フィンランド式)と遠赤外線サウナの違いがまとめられています。従来の高温サウナは、ストーンを使ったものと解釈して良さそうです。それによると、ストーンを使ったサウナ室は「表皮加熱のみで温熱が伝わり難い」「深部まで温まるのに時間がかかる」のに対して、遠赤外線サウナは「遠赤外線で深部まで温熱が伝わり易い」「深部から温まる時間が早い」*1と説明されています。マイナスイオンの発生など、仕組みが気になる記述もありますが、メーカーからはこのように違いが説明されています。

サウナ 対流熱と輻射熱

(画像出典:株式会社神戸メディケアHP

 

 冬の寒い日に暖をとるのに、石を熱することで熱を発生させる人は少ないでしょう。単純に身体を温める目的であれば、ロスの少ない遠赤外線ヒーターが効率が良いです。しかし、私たちはサウナ室に暖をとりに行っているわけではありません。心地良さ、気持ち良さを求めてサウナに行くわけですから、ロスがあっても全身が対流熱に包まれる方が良いと感じるかもしれません。もちろん、ストーンの場合も換気などによって部屋にどのくらい熱がこもるかは変わってくると考えられますが、なんとなく自分はストーンや格納式が好きだなという人は、対流熱の方が心地良く感じるのかもしれませんね。好みもあるでしょうし、それぞれのサウナ室の条件にもよりますが。

 対流熱がメインのサウナ室においては、熱の動き、対流が重要です。ストーンを使ったサウナヒーターの上には板(反熱板)が吊るしてあるのをよく見かけます。例えばこんな感じです。

サウナ ヒーター 反熱板

(画像出典:テルマー湯HP ※赤丸は筆者)

 

 輻射熱は直接身体に熱が届きますが、対流熱は空気の流れに乗って熱が運ばれてきます。ヒーターの上の反熱板はこの空気の流れ、つまり対流熱の流れをコントロールしていると考えられます。「サウナと温度 座面温度の計測~女性サウナ室~」で見たように、空気は高温の方が軽く、低温の方が重いため、重たい低温の空気が重力によって下に下がることで軽い高温の空気が上の方に押し上げられます。そして、後ろからやってくる新たな熱い空気に押し出されてやがて落ちてくるという動き方をします。反熱板を、ヒーターに対して少し斜めに設置すれば、熱がまっすぐ天井に上がって上で溜まるのではなく、傾斜に沿って横向きに流れてくるようコントロールできます。ヒーターに対して水平に設置しても、対流熱は天井まで上がる前に反熱板に当たり、後ろからくる新たな熱い空気に押し出されて人が座っている位置に効率良く流れてくると考えられます。格納式のサウナ室の場合でも、背面の隙間の上に反熱板を吊るし、対流熱が人の方におりてくるようコントロールしていることはよくあります。

サウナ ヒーター 反熱板

(画像出典:ニューウイングHP ※赤丸は筆者)

 

サウナ室の対流熱と反射板

 ストーンを使ったサウナ室では、対流熱の動きが重要です。つまり、サウナ室の心地良さや熱さには、対流の流れを左右する換気が非常に重要なファクターになってくると考えられます。換気についても、別の記事で考察したいと思います。

 また、ストーンを使ったサウナ室は対流熱が主であると考えられますが、ロウリュをすると更に蒸気の対流による熱さもそこに加わります。格納式でストーンを使ったヒーターを格納していて、定期的に水がかかる仕組みになっている場合も同じです。湿度の上昇により体感温度も上がりますし、ロウリュをするといろいろな種類の熱さが体験できると言えそうです。

 いろいろな種類の熱さ、という点で言えば、草加健康センターの男性側のように遠赤外線ヒーターとストーンを使ったヒーターの両方を設置しているサウナ室は、身体に届く熱の種類も多くなり、熱いのも納得ができます。画像の左が遠赤外線ヒーター、右がストーンを使ったヒーターです。

サウナ ヒーター

(画像出典:湯乃泉草加健康センターHP ※赤丸・ヒーターの種類は筆者)

 

 草加健康センターの女性側はMETOSの「イズネス」というヒーター1基ですが、このヒーターはもともとストーンを使っていながら遠赤外線も発するという、「フィンランド生まれのサウナストーンをガス遠赤外線ヒーターに融合」*2という宣伝文句のヒーターなので、仕組みは違いますがこちらも遠赤外線ヒーターによる輻射熱とストーンによる対流熱の両方が発生していると考えられます。いろいろな種類の熱が届くということは、サウナ室での体感が熱くなる理由の一つかもしれません。

草加健康センターのサウナ

草加健康センターのサウナ
(画像出典:Saunaで数えるOneからThousand 「埼玉 草加健康センター 〜女性サウナイベント『私は、サウナ』〜」


 今回はサウナ室の中の熱について更に考察してみました。体感で熱を何から出た何熱なのか区別することはできませんが、ヒーターの種類によって体感がどう違うか、考えながら入るのも楽しいかもしれません。

 

参考資料

METOS HP、「サウナ用ガス遠赤外線ヒーター」製品ページ

株式会社神戸メディケアHP、「遠赤外線サウナ」製品ページ

 

 

*1:株式会社 神戸メディケアHP

*2:株式会社METOS、「イズネス」製品ページ