Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナとやけど

 「サウナと湯冷め」では、湯冷めが体温調節機能によって引き起こされることを確認しました。サウナを楽しむにあたり、気を付けた方がよいことは他にもあります。その一つにやけどがあります。今回は、サウナとやけどについてまとめてみます。

低温やけど

 サウナや岩盤浴で負ってしまう可能性があるのが低温やけどです。低温やけどは、高温の物に触れて「あつ!」と思って負うやけどとは違って、心地よく感じる温かい温度に長時間触れることで生じます。一般社団法人日本熱傷学会によると低温やけどは次のようなものとされています。

低温やけどは、心地よく感じる程度の暖かい温度(44℃~50℃)でも、長時間にわたり皮膚の同じ場所に接していると発生するやけどです。じわじわと皮膚の深いところにまで達するので、特に、赤ちゃんや子どもは気づかないうちに重症になってしまうことがあります*1

低温やけど

 

 高温の物に触れると短時間でもやけどを負います。心地よい程度の温度、44~50℃でも長時間触れ続けるとやけどを負ってしまうというわけです。「長時間」というのがどの程度なのかということについて、サツドラ(SAPPORO DRUG STORE)のホームページでは次にように説明されています。

低温やけどになり得る時間は、温度が1℃上がるごとに時間が半分になると言われています。つまり、44℃のものに6時間触れていると低温やけどになるところ、45℃ならその半分の時間の3時間、46℃なら1.5時間、47℃なら45分間という計算です*2

  温度が1℃上がるごとに低温やけどを負ってしまうかもしれない時間が半分になるそうです。1℃で半分、結構変わります。45分と言われると長いですが、48℃になれば22.5分となり、ちょっと気を抜いたら経ってしまう時間な気がします。サウナ室の壁や椅子は木材であることが多く、普通に使う分にはやけどをしませんが、例えばマットなどを敷かずに長時間座っていたら、低温やけどを負うことは十分考えられるということですね。

 低温やけどはどういうものが原因で起こるのでしょうか。久保皮膚科のホームページでは次にような例があがっていました。

冬場の寒い時期に使用頻度が増える、湯たんぽ、こたつ、あんか、電気毛布、カイロ、ファンヒーター等の暖房器具や、携帯電話の充電器、保温機能付き便座、岩盤浴やサウナなどでも報告されています*3

 岩盤浴やサウナでも低温やけどを負うことがあるということですね。日本気象協会のホームページによると、低温やけどは冬のやけどの半数近くを占めるといいます*4。原因としては次にようなものがあげられるそうです。

・室内や乗り物等のヒーター噴き出し口の温風で。
・保温式の便座で。
・ノートパソコンを膝の上で作業中。
・睡眠時の電気あんかや湯たんぽ、電気毛布を使用中。
・ホットカーペットの上で熟睡してしまった。
・サウナや岩盤浴で寝てしまった。
・携帯電話を耳に当てたまま寝てしまった*5

 携帯電話やパソコンなど身近なものでも低温やけどをすることがあるようです。サウナや岩盤浴も、普通に利用していればやけどすることはないですが、うっかり寝てしまう、長時間同じ姿勢でいるなどで、低温やけどを負う可能性はあるということです。

 低温やけどの場合、高温の物に触れて負うやけどと違って軽い症状に見えてしまうといいます。

火やお湯などによるやけどと違い、水ぶくれを起こしにくく、何か赤くなっている、何となくひりひりする、何となく痒いなど、表から見ると軽い症状なのかなと受け取られるパターンが多いです。が、その時はすでに深いところまでやけどが進行していることが多く、時間が経つにつれて深くまで傷んだ部分がはっきりしてきて、皮膚潰瘍を作ったり細菌感染を起こしたりします*6

 体温が上昇すると皮膚は赤くなりますが、皮膚表面の赤さがサウナを出てからしばらく経ってもひかないことがときどきあります。こういう場合は軽い低温やけどを負っているのかもしれません。酔っている状態や過度の疲労状態だと、気づかずに低温やけどを負ってしまうこともあると指摘されています。また、サウナに慣れているとつい油断して同じ姿勢で長い時間入ってしまうことがあります。布製のサウナマットが敷いてある場合も、その上から自分のタオルやサウナマットを敷くと安心ですね。自分のサウナマットを敷くと衛生的でもあります。

サウナマット

 

水蒸気とやけど

 サウナ室は表示の温度が100℃を超えていても、やけどをすることはありません。これは、空気と水の熱伝導率が違うためでした。空気であれば、高温でもやけどはしませんが、水蒸気となると話は別で、ロウリュで発生する水蒸気は当然やけどのリスクがあります。

 株式会社アクトパスによる『日本全国ロウリュ辞典』の温浴施設向けのページでも、ロウリュによるやけどのリスクについて言及されています。ロウリュサービス運用上の注意点の一つとして、「火傷のリスク」が指摘されており、「ロウリュ時にストーブから立ち上る水蒸気は大変熱く、火傷のリスクがありますので、十分な注意をお願いいたします」*7と書かれています。

 また、楽楽ホールディングスの「サウナ王が伝授するロウリュ導入コンサルティング」には次のような記載もあります。

ロウリュを実際に始められた施設様はお分かりいただけると思いますが、スタッフは手が火傷したり、熱さで頭が働かなくなったり、呂律が回らなくなったりすることもあります*8

 特に施設が運用するロウリュサービスは、一度にかける水の量も多く、発生する水蒸気の量も多いので、きちんとリスクを理解した上でスタッフが行う必要があるわけです。最近では利用者がロウリュをすることができるサウナ室や、アウトドアのテントサウナの利用なども増えてきました。自分でロウリュをしながら入ることができるサウナ室は贅沢ですが、やけどのリスクなども理解した上で利用できるとよいですね。

スパプラザ

(画像出典:文春オンライン | ロウリュサービス普及の立役者「ニュージャパン」 関西サウナの殿堂は日本のサウナ史そのものだった

 

蒸し風呂とやけど

 蒸し風呂でのやけど防止は昔から考えられていたようです。「浴衣」の語源は「湯帷子」(ゆかたびら)だと言われていますが、これは平安時代に風呂(蒸し風呂)に入るときに着ていた衣服のことです。湯帷子は「平安時代の貴族が蒸し風呂に入る時、水蒸気でやけどをしないように着た」*9と言われています。

湯帷子

(画像出典:MISO POTA KYOTO | ●お奨め出汁+具材の組み合わせ

 

 この湯帷子、文献上では平安中期の漢和辞書である『和名類聚抄』に出てきます。『和名類聚抄』の巻14には「澡浴具」として「由加太比良」が出てきます。「論語注云明衣以布為沐浴衣也」とあるように、「沐浴のために着る衣」と説明されています。「温室経云澡浴之法七物其七」ともあり、温室経でいわれている沐浴の七物の7番目、とも書かれているのがわかります。

 『温室経』とは経典の名前です。正式名称は『仏説温室洗浴衆僧経』で、736年に日本で初めて写経が行われたとされています*10。温室は、当時の蒸気浴風呂、つまり昔のサウナのことです。この『温室経』には、「七物」を用いて沐浴することで「七病」を除き、「七福」を得ることができると説かれているといいます*11

 この「七物」の一つが湯帷子ということのようです。奈良文化財研究所のホームページによると、「七物」とは以下の7つだそうです。

「七物」は、沐浴に必要な7つのアイテムのことで、①火、②水、③洗い粉、④芳香物、⑤洗剤、⑥歯ブラシ、⑦入浴時に着用する衣服、以上の7つです*12

 7つ目が湯帷子ですね。ちなみに「七病」と「七福」は次の7つだそうです。

「七病」は入浴によって解消される病気のことで、①肉体的な病気、②風邪、③手足のしびれ、④冷え性、⑤熱気、⑥不清潔、⑦だるさや眼の疲れ、を挙げています。

そして得られる「七福」は、①無病、②清潔、顔立ちも良くなる、③身体からの悪臭、衣服の汚れの解消、④肌のうるおい増加、⑤運気上昇、⑥口臭予防、⑦衣服が清潔できらびやかになる、と記されています*13

 このように仏教の観点からも当時のサウナ浴のラッキーアイテムとされている湯帷子、実用的な面では水蒸気でやけどをしないため、汗を吸収するため、裸を隠すためなどの目的で使われていたようです*14。平安時代の人々も、やけどに気を付けつつ蒸気浴をしていたのですね。

(画像出典:thisismedia | 戯遊七福神

  

 今回はサウナとやけどについて考えてみました。普通にサウナを楽しむ分には、やけどの心配はあまりありませんが、ちょっとぼんやりしていたり、疲れていたりすると軽い低温やけどを負ってしまうこともあり得ますし、ロウリュでやけどをしてしまうこともあり得ます。やけどに気を付けつつ、「七福」を得られるようなサウナ浴を楽しみたいものです。

 

 

参考文献・資料

一般社団法人熱傷学会「予防・事故情報」(最終アクセス日:2021年4月2日)

株式会社アクトパス、『日本全国ロウリュ辞典』(最終アクセス日:2021年)

久保皮膚科「第12回は、“低温やけど”に関する“へぇ~”をお届けします.」2020年1月5日(最終アクセス日:2021年)

奈良文化財研究所、「お風呂のトリプル『七』」、『なぶんけんブログ』2019年2月1日(最終アクセス日:2021年)

日本気象協会「知らないうちに『低温やけど』?! あったかグッズに潜む危険とは」2015年1月13日(最終アクセス日:)

日本ゆかた文化協会、「ゆかたの歴史」(最終アクセス日:2021年)

『和名類聚抄』巻14(「日本語史研究用テキストデータ集」参照)

 

 

 

*1:一般社団法人熱傷学会HP

*2:サツドラHP

*3:久保皮膚科HP

*4:日本気象協会HP

*5:同上

*6:久保皮膚科HP

*7:株式会社アクトパス

*8:楽楽ホールディングスHP

*9:日本ゆかた文化協会HP

*10:奈良文化財研究所HP

*11:同上

*12:同上

*13:同上

*14:日本ゆかた文化協会