Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

湿式サウナの効果

 「湿式サウナと乾式サウナ」では、湿式サウナとはどういうものか、またどのような効果があるとされているかを見てみました。湿度が高い分、乾式サウナよりも汗が出る、という指摘もありましたが、実際そうなのでしょうか。今回は、乾式サウナと湿式サウナの違いについてさらに詳しく見てみます。

 

乾式サウナと湿式サウナの効果の違い

 「湿式サウナと乾式サウナ」で見たように、湿式サウナは湿度が高いため発汗量が多いと言われることがあります。しかし、オーストラリアの医師Joy Hussainは次のように指摘します。

In a nutshell, both involve whole-body exposures to hot air, but dry saunas stimulate sweating and steam rooms reduce our ability to sweat,*1

(一言で言うと、両方(乾式・湿式)とも熱い空気に身体をさらすわけですが、ドライサウナは発汗を刺激し、スチームサウナは発汗の能力を低下させます)

 湿式の方が汗をかいているように感じるけれど、身体についた水滴は汗よりも湿度の高い空気中から結露してついた水分であると考えた方がよい、というのです。「サウナと結露・潜熱 汗か結露か」で見たように、乾式サウナでロウリュをしても皮膚表面で結露が見られるわけですから、温度が低温と言っても体温よりはかなり高い温度の湿式サウナで相対湿度が100%であれば、身体の表面で結露が起こっていても不思議ではありません。

 Hussainは、サウナの定期的な利用が心血管の改善、脳卒中のリスクの低下、免疫システムの向上、血圧を下げる、リラックス効果、などにつながるとされていることを指摘しつつ、残念ながら特定の病気に対するサウナの利用について検証できる研究はないことを指摘しています*2。しかし、一般的に言われている身体への影響は、乾式でも湿式でもさほど違いはないだろうと、Hussainは言います。しかし、身体に変化が生じるのは湿式サウナの方が速いと指摘されています。

"However, I would suspect that the health benefits are quite similar to dry saunas,” says Dr. Hussain. “Both saunas and steam rooms increase your skin and core body temperatures, causing various physiological changes, but these changes happen a lot faster and with more intensity in steam rooms because your sweating responses are dampened, literally.

(「しかし、(湿式サウナの)健康効果は乾式サウナと似ていると思います。」とフセイン医師は言います。「ドライサウナとスチームサウナは、どちらも皮膚表面と身体の深部の体温を上昇させ、さまざまな生理的な変化を引き起こしますが、発汗が抑制されるため、スチームサウナではこうした変化はより速く、激しく起こります。」

 人は汗の蒸発によって体温を調節しています。湿度が高く、汗が蒸発しにくい湿式サウナでは、より速く体温が上昇し、それに伴う身体の生理的変化も、速く起こるというのです。

  では湿式サウナの方が身体によいのでしょうか。Hussain医師は次のようにまとめます。

It all comes down to personal preference and how your body reacts to the thermal stress of a dry sauna or steam room. “There is not enough good quality evidence directly comparing the two types to make any kind of meaningful statements about health differences yet"*3

(全ては、個人的な好みと、ドライサウナやスチームサウナの熱さ対する身体の反応によります。「2つのタイプを直接比較し、健康の違いについて意味のある説明をするのに十分で良質な証拠は今のところありません」

 結局のところ、乾式にせよ湿式にせよ、まだ研究が不十分であり健康効果に有意な差は証明されていないということです。個人の好み、どちらのタイプの熱さが自分に合うか、ということで選べばよい、という結論です。

  発汗が抑制されるため、生理的変化 は湿式の方が速いという指摘がありましたが、日本で湿式サウナ浴と乾式サウナ浴における体温などの変化を見た実験が行われていました。

  北海道大学医学部附属温泉治療研究施設と松下電工による「乾式サウナと湿式サウナ浴の体温および循環動態の比較検討」という実験です。この実験では、ドライサウナ入浴とスチームサウナ入浴における体表温度・直腸温度・発汗量・各種循環動態を比較しています。

乾式サウナと湿式サウナ

 

 この実験では、発汗量には差が見られず、低温であるため湿式サウナの方が循環動態の影響は緩やかだったという結果だそうです。乾式サウナは高温であるため、自覚的な不快症状も見られたということです。

 サウナ浴に慣れていない人、熱いのが嫌いな人は、高温の乾式サウナでは不快感を覚えてしまうのに対し、湿式サウナは温度自体は低いため、誰でも入りやすい、ということでしょう。一方「熱い」と感じたい人にとっては、やはり乾式サウナの方が好まれるでしょうし、「熱さの好みの問題」ということになりそうです。

  

女性は湿式サウナが好き?

 「熱さの好み」と言うと、湿式サウナは男性よりも女性向け、という文言を見かけます。実際に、男性側ドライサウナ、女性側スチームサウナ・ミストサウナ、というケースは少なくありません。逆に、女性側がドライサウナで男性側がスチームサウナやミストサウナのみ、というケースはあまり見かけません。こうした現状には、女性は湿式サウナの方が好きだという考え方があるのではないでしょうか。

 

塩ミストサウナ

(画像出典:あるごの湯HP | 塩ミストサウナ)

 

 実際に、湿式サウナの宣伝文句には、女性向けをアピールするものも少なくありません。例えば、先ほども引用した「スチームサウナ、その嬉しい効果とは?」という記事の導入部分には、次のように書かれています。

サウナに入ることで心身のリラックス効果が得られたりや不眠症の改善など、人によって使用する目的は様々です。しかしサウナと聞くとなんとなく、男性が好むイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。実は女性に嬉しい美肌効果やデトックス効果がある事をご存知でしたか?

(中略)温度が低温なため息苦しさもなく、その為サウナ初心者や女性を中心にに人気が高まっているのがこのスチームサウナです*4

 「男性が好むイメージ」であるドライサウナに対して、「女性に嬉しい」スチームサウナがある、という導入になっています。SpaKhakaraのホームページでも、スチームサウナの効果を紹介した上で、「女性に嬉しい事がこんなにいっぱい(^^♪」*5とまとめられています。

  女性に湿式サウナが勧められる理由として、低温で入りやすいことと、発汗しやすいことがあげられます。前者については、女性の方が熱さに弱いという考え方があるのでしょう。同じ乾式のサウナがあっても女性側の方が温度が低いということは多々ありますが、これも逆はありません。実際には、むしろ女性の方が熱さに強い、ということは「サウナと汗 発汗の仕組み②」でも紹介しましたが、一般的に女性は熱さに弱いという認識があると言えます。発汗しやすい、という点については、実際に女性の方が男性に比べて汗をかきにくい体質であることが関係していそうです。これも「サウナと汗 発汗の仕組み②」で見たように、同じ体温で見ると、女性の汗は男性の汗の2/3~1/3であり、女性の方が男性より汗が出始めるまでに時間がかかると言われています*6

サウナと汗

 

 しかし、実験によると発汗量は湿式でも乾式でも変わらないということでした。また、海外の記事では、湿度が高いため乾式より湿式の方が発汗が抑制される、とも書かれていました。汗をたくさんかいているように見えても、実際は乾式と同じか、乾式より汗が出ていない可能性が高いです。蒸発しにくい分、目に見える汗は多く見えるかもしれませんが、乾式ではかいた先から汗が蒸発しているだけ、ということでしょう。

 結局のところ、女性だから、男性だから、ということではなく、個人の熱さの好みによって乾式が向いていたり湿式が向いていたりするということだと言えます。体温は同じように上昇しているとしても、表面の体感の熱さなどは違いますし、水風呂に入ったときの体感なども乾式と湿式では違いがあるかもしれません。そのあたりも含めて、好みに合わせて好きな方に入れば良いということですね。

 

ニュージャパン梅田

(画像出典:NEW JAPAN UMEDA HP | ミストサウナ内の水風呂)

 

 今回は湿式サウナについてまとめてみました。サウナは熱すぎて、という人には湿式サウナを勧めてみたら、意外とはまるかもしれませんし、たまには「熱さの種類」を変えてみたいと思ったら、スチームサウナやミストサウナを楽しむのも良いですね。

  

参考文献・資料

ENEGYQUEST「スチームサウナ、その嬉しい効果とは?」2016年2月29日(最終閲覧日:2020年8月1日)

Pirie, Kaitlyn. "Steam Room vs. Sauna: Which Is Better for You?" GOOD HOUSEKEEPING, 2020/3/3(最終閲覧日:2020年8月1日)

SpaKhakara「コッソリ教えちゃう♪スチームサウナに隠された3つの効果」2015年9月11日(最終閲覧日:2020年8月1日)

菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書

野呂浩史・渡部一郎・薮中宗之・大塚吉則・阿岸祐幸・小泉秀雄・ 帖佐弘隆(1993)「乾式サウナと湿式サウナ浴の体温および循環動態の比較検討」『日生気誌』30巻3号、p.116

 

*1:Pirie, Kaitlyn

*2:同上

*3:Pirie, Kaitlyn

*4:ENERGYQUEST

*5:SpaKhakara

*6:菅谷、p.183