Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

エビデンスの弱い情報とどう付き合うべきか

 5月14日(木)に開催された株式会社アクトパス主催オンラインイベント「おふろ&サウナサミット5.14」でSaunologyも登壇させていただき、「温浴施設はまだエビデンスの弱い情報とどう付き合うべきなのか」というテーマで温浴ビジネス関係者の方々向けに話をさせていただきました。今回はその内容をベースに、発表には入りきらなかった情報もまとめ直して、withコロナの状況下で「エビデンスの弱い情報とどう付き合うべきなのか」について考えてみたいと思います。

おふろ&サウナサミット

 

「自粛警察」

 ご存知の通り、自粛警察とは緊急事態宣言下で外出や営業の自粛に応じない人や店舗に対して、私的な取り締まりや発言をする一般市民を指します。感染対策をお店がいくらがんばっても、「お店を開けるにはまだ早い」「お店が開いてても行く人が悪」という空気がある限りサウナには行きにくく、こういった意見とどう付き合っていくかも考える必要があるでしょう。

 withコロナの、コロナの影響が長期化する状況下においては、温浴施設の客同士にも行く派・行かない派がいて、行かないで自粛している人が行く人を批判・誹謗するのを聞くこともあります。「行くこと自体が悪」という気持ちにさせられる空気、お互いが監視し合うような空気がある限り、どんなにお店側が対策をしても客は少ないままではないでしょうか。

 自粛警察が生まれる背景には恐怖心・集団ヒステリー・ストレスなどがあると言われています。過去にも、明治期のコレラ流行の際に同じようなことが起こりましたが、その時も自粛警察的な存在が出てきたことが記録されています。そして、その背景にあったのは当時の警察や政府への不信感だと言います。

 こういった不信感を払拭するためには、明確な基準や信頼できる公的な情報が必要だと考えられます。しっかりした基準がないから安心できず、「危ないんじゃないか」と考えて、自粛警察は個人個人の「正しい」を押し付けるようになります。

 新型コロナウイルスに対する公的な信頼できる情報も必要ですが、現時点では期待薄のため、各業界が連携し、可能な限り「科学的な根拠」に基づいたガイドラインを示す必要があります。温浴施設も、なんとなくの対策ではない基準を示し、それを守った上での営業は比較的感染リスクが低いことをしっかりと説明した方がいいはずです。

 ではどういうガイドラインを示し得るのでしょうか。温浴施設に関連して、「コロナに効く」というような言説も見かけます。そういう言説には実際どのくらい根拠があるのでしょうか。少し調べてみました。

 

サウナでコロナは死ぬ?

 コロナは「高温多湿に弱い」という予測により、「サウナでコロナは死ぬ」という言説があるのを聞いたことがある方もいるかもしれません。これはどこまで信用できる情報なのでしょうか。

  フランスの研究チームによる新型コロナウイルスを感染させたサバンナモンキーの腎臓細胞を加熱する実験結果*1を以下にまとめてみました。

サウナとコロナ

 

 そして、中国のサウナがある温浴施設でクラスターが発生したニュース*2もありました。サウナとコロナ

 

 また、高温環境下だとしても、空気中や室内のウイルスとは違い、体内のウイルスには特に影響はないことも指摘されています*3サウナとコロナ

 

 

 これら「フランスでの実験結果」「温浴施設でのクラスター発生」「空気中と体内のウイルスの違い」などをまとめると次にように言えるでしょう。

  • 他のウイルスは60℃で不活性化するにもかかわらず、新型コロナウイルスは92℃で15分加熱するくらいの熱を与えないと影響がない。
  • サウナ室は表示90℃以上のところもあるが、座面はそこまで高温ではない。高温であっても空気中で不活性化されるかは不明(されるかもしれないが確証はない)。
  • 仮に空気中で不活性化されたとしても、感染してしまっている人の状況には影響がない。これはどんなに高温の風呂もしくは高温のサウナに入っても体温が92℃になることはないため。つまり隣の人が感染していれば、それがうつる可能性は大いにあり、感染している人が回復することもない。
  • 高温多湿の温浴施設でもクラスター発生の事例があり、高温多湿環境も安全ではないと言われるようになった。

 

ユーカリのアロマがコロナに効く?

 コロナウイルスを包んでいるエンベロープという膜がユーカリによって破壊されるため、ユーカリのアロマがコロナに有効だという言説もあります。

 新型コロナウイルスに関連して広がっている疑義言説・真偽不明情報のうち、 海外のメディア・団体によりファクトチェックが行われたものを中心にまとめたサイト*4から、この件に関して記載している箇所をピックアップしてみました。

アロマとコロナ

  

 また、アロマ業界自体も、これについては科学的根拠がないとしているようです。

アロマとコロナ

 

 これら「科学的根拠がない」「アロマ業界の警告」などから、ユーカリにまつわる言説については次のように言えるでしょう。

  • ユーカリの蒸気、ユーカリを使った治療共に「誤り」であることが研究で指摘されている。
  • アロマ業界も根拠がないと警鐘を鳴らしている。
  • 蒸気やユーカリそのものを使った治療も否定されているのに、そもそもアロマで人体に効果があるとは考えにくい。

 

サウナで免疫力を上げて感染を防ぐ?

 サウナで免疫力が上がるという言説もよく聞きます。東洋経済オンラインでは「免疫力」はそもそも測ることができず、測ることができない以上、上がるも下がるも根拠がない*5という指摘が紹介されています。

サウナと免疫力

 

 また、海外のサイトでもそもそもサウナで免疫力が上がるということに科学的根拠はないと指摘されています*6

サウナと免疫力

 

 これら「免疫力の曖昧さ」「科学的根拠のなさ」などから、サウナで免疫力が上がるとされている言説については次のように言えるでしょう。

  • 「免疫力」自体、明確に測ることができるわけではない曖昧なものである。
  • 体温を上げることで免疫力が上がるとは言い切れない。
  • サウナは免疫力を上げるということに科学的根拠がないという指摘がある。

 

鵜呑みにできない情報といかに付き合っていくべきか

 まず大前提として、新型コロナウイルスについての情報は専門家の間でも意見がわれ、しっかりしたエビデンスを示すことができない状態であるということを理解する必要があります。特に「効果」を謳うものを鵜呑みにすることは、危険だと考えらえれます。

 「自粛警察」が生まれる背景には明確な基準がないことがあげられるため、不用意に「安全」を謳えば不信感は高まり、客同士や、場合によっては店同士の分断にもつながる可能性もあると言えるでしょう。根拠の薄い、あるいは否定されている情報を鵜呑みにして提示すれば、不信感を助長することにもなりかねないわけです。

 一方で、明確な基準を示し、これを避けるためにこういう対策をしている、ということを具体的に示すことで、「不信感」「不安」を、多少なりとも軽減することはできるのではないでしょうか。例えば、92℃15分で不活性化するが体内のウイルスは高温環境でも変わらないということは、しゃべらないことの重要性も証明しています。そう考えると、「しゃべらずにロウリュサービスを行う」「サウナマットを減らして間隔をとる」といった対応*7は、意味があることであるとも言えます。

 お店側としては、いかにそれが魅力的でも、科学的根拠のない情報を提示するのは「自粛警察」の存在を考えると逆効果とも言えます。「自粛警察」が生まれる背景である不信感をクリアするには、根拠のないことは言わない、ということが有効なのではないでしょうか。科学的根拠のないことは言わず、頻繁にマット交換をしている・ロッカーの消毒をどのくらいの頻度でやっている・人数制限をどのくらいしている、といったことを明確に示し、それを踏まえて利用者自身が判断をするのがよいのではないでしょうか。

 また、利用者の立場として、自分が「正しい」と考えていることが本当に正しいのか、今一度考えてみることも大事ではないでしょうか。公的な情報があやふやであるため、またそもそもウイルス自体についてまだわかっていないことも多いため、「正しい」が人によって違うものになるのは仕方のないことです。また、何を基準にものを見るかによっても違うでしょう。経済なのか、命を守ることなのか、何ならOKで何はNGなのか、未知のウイルスに対する基準や考え方が人によって異なるのは仕方がないことでしょう。同じ「命」という要素をとっても、感染リスクに対して「命には変えられない」と考える人もいる一方で、経営側にとっては「経済」が「命」に直結することもあるわけです。

 しかし、基準や考え方がばらばらであっても、相手が未知のウイルスであっても、他人の権利を侵害して良いということにはなりません。自分は安全なところから発言してはいないか、ということも、考える必要があるかもしれません。

 一方で、自粛せずにサウナに行く人が、自粛している人に対して「自分は気にしない」と楽しそうに振る舞う必要もないように思います。自分が無症状の感染者であったら、と考えて行くことを我慢する人、同居している家族、職場の人への感染リスクを考えて我慢する人、事情や考え方はさまざまです。わざわざサウナを楽しむ様子を人目につくところで示し、神経を逆なでして対立を生む必要もありません。折り合いをつけるとしたら、サウナ行った!と楽し気に話すことも、人がサウナに行くか行かないか、営業するのかしないのかを監視するのもやめるというというところではないでしょうか。当面は、お互いがお互いの価値観を尊重しつつやっていくしかないのではないでしょうか。当面は、と言いながら、これは普段から重要なことでもあると思っています。コロナに関連することに関わらず、考え方は人それぞれなのであって、それをよってたかって批判したり、否定したりすることは、そもそも良いこととは言えません。

 経営的な側面を考えてサウナに行く人も、自分が感染しているかもしれないと考えてサウナを控える人も、サウナがなくならないでほしいと思う気持ちは同じでしょう。

 

 今回は、おふろ&サウナサミットで発表した内容をまとめなおしてみました。報告の機会をいただきありがとうございました。

 

参考文献 

Cosmetics design-asia.com "Essential oils and COVID-19: Industry warns no sufficient evidence for efficacy amid sales surge" 2020.4.6(最終アクセス日:2020年5月16日)

COVID-19 Facts, "Myth: Taking a sauna or hot bath can kill coronavirus", 2020.3.31(最終アクセス日:2020年5月16日)

Yahooニュース「新型コロナウイルス、60°Cで 1時間加熱しても生存…夏にも高い感染力が予想」2020年4月20日(最終アクセス日:2020年5月16日)

ケアネット「新型コロナウイルス、高温多湿でも集団感染が発生か」2020年4月9日(最終アクセス日:2020年5月16日)

時事ドットコム「中国の公衆浴場で新型コロナ集団感染か 9人、高温多湿でも―南京医大」2020年3月31日(最終アクセス日:2020年5月16日)
東洋経済ONLINE「体温上げて万病予防」は、間違った発想だそもそも「免疫力の強さ」ってどう測るの?」2016年2月14日(最終アクセス日:2020年5月16日)  

ファクトチェックイニシアチブ「チェック済み情報まとめ(海外編)」(最終アクセス日:2020年5月16日)

 

*1:Yahooニュース、2020年4月20日

*2:ケアネット、2020年4月9日および時事ドットコム、2020年3月31日

*3:COVID-19 Facts

*4:ファクトチェックイニシアチブ

*5:(東洋経済ONLINE、2016年2月14日(最終アクセス日:2020年5月16日)

*6:COVID-19 Facts

*7:こうした対策は、例えば神奈川県横浜市のファンタジーサウナ&スパおふろの国が実施している